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2025/08/15

どうなるトランプ関税③日米関税協議の合意内容と経済に与える影響

画像出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/32541611

2025年7月23日、トランプ大統領が「関税をめぐる日米協議が合意に達した」とSNSで発表しました。発表内容には、関税率のほかアメリカへの投資や自動車や農産物の輸入拡大なども盛り込まれており、今後の日本経済に大きな影響を与えることになりそうです。

この記事では、トランプ関税のこれまでの経緯やアメリカの関税措置に関する日米の合意内容について分かりやすく解説。現時点で発表されている情報をもとに、今後の影響についてもお伝えします。

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トランプ関税の主な経緯

まずは、トランプ関税により日本からの輸入品への関税がどのように変わっていったのか、時系列で見ていきましょう。

2月10日鉄鋼・アルミ製品に対し25%の追加関税を発表(発動は3月12日)
3月26日自動車・自動車部品に対し25%の追加関税を発表(発動は自動車が4月3日、自動車部品は5月3日)
4月2日すべての国に対し一律10%の追加関税を課すとともに、貿易赤字額が大きい国・地域には個別に上乗せした関税(日本は24%)を課すと発表
4月5日すべての国からの輸入品に対し10%の追加関税を発動
4月9日国別の相互関税を発動(中国以外の国への相互関税は90日間停止)
6月3日鉄鋼・アルミ製品に対する追加関税を50%に引き上げると表明(発動は6月4日)
7月7日日本に対する国別の相互関税を24%から25%に引き上げると表明
上乗せ分の停止期限を8月1日に延長
7月23日日本に対する相互関税・自動車関税ともに15%で合意
8月7日15%の相互関税が発動予定

相互関税は4月5日から一律10%かけられているため、8月7日からは5%上がって15%になります。

自動車は4月3日から25%の追加関税がかけられていて、関税率は既存の2.5%と合わせて27.5%となっています。15%への引き下げが決定していますが、発動の日程は8月3日現在発表されていません。

アメリカの関税措置に関する日米の合意内容

画像出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/25519108

日米の関税協議では、自動車や農業、防衛装備品など幅広い分野について3ヵ月にわたり話し合いがおこなわれました。その結果、アメリカが関税率の引き下げに応じる代わりに、日本はアメリカへの投資やアメリカからの輸入拡大などを約束することになりました。

ここからは、合意内容について「関税に関すること」と「それ以外」に分けて説明します。

関税に関する合意内容

日本からの輸入品に対する税率は、次の内容で合意に達しました。

  • 日本への関税を25%から15%に引き下げる
  • 自動車と自動車部品に対する25%の追加関税を既存の税率と合わせて15%とする
  • 鉄鋼製品とアルミニウムに対する関税は50%で変更なし

8月1日から発動が予定されていた相互関税は、25%から15%に引き下げられました。既存の関税率が15%以上の品目には追加の上乗せはなく、15%未満の品目については15%が上限となります。例えばもともと26.4%の関税がかけられていた牛肉は、10%の追加関税によって36.4%となっていましたが、今後は26.4%に戻ることになります。

自動車や自動車部品は、既存の関税率と合わせて15%となります。例えば、乗用車はもともと2.5%で追加関税により27.5%となっているのが、15%に引き下げられます。27.5%と比べると大幅な引き下げですが、既存の税率と比べると12.5%の引き上げとなります。

鉄鋼製品とアルミニウムについては、すでに適用されている50%の関税が継続されます。

関税以外に関する合意内容

アメリカが相互関税や自動車関税を引き下げる代わりに、日本はアメリカに対し次のような投資や輸入拡大をおこなうことで合意しました。

  • 5,500億ドル(およそ80兆円)を投資する
  • アメリカ産米の輸入を即時に75%増やす
  • トウモロコシや大豆などの農産物を80億ドル(およそ1兆2,000億円)購入する
  • ボーイング社の航空機100機を購入する
  • アメリカ企業に関連する防衛支出を年間170億ドル(およそ2兆5000億円)に引き上げる

5,500億ドルの投資について、ホワイトハウスは「日本はアメリカの指示の下、戦略的産業基盤であるエネルギー、半導体、重要鉱物、医薬品、商用・防衛造船などに投資する」と公表しています。

アメリカ産米の輸入拡大は既存のミニマムアクセス(最低輸入量)の枠内でおこなうため、輸入米の総量は変わらないとされています。このため、タイなどから輸入していた分の多くがアメリカ産に置き換わる見込みです。

コメ以外の農産物については、トウモロコシや大豆のほか、肥料やバイオエタノールなど合計80億ドルを購入するとしています。

ボーイング社の航空機購入については、ANA、日本航空、スカイマークの3社で合計105機が各社の購入計画に沿って発注済みです。100機というのが発注済みの分を指すのか、新規購入かは明確にされていません。

防衛装備品の購入について、日本側は「すでに決定している防衛力整備計画に沿ったもの」と説明する一方で、アメリカのホワイトハウスは「追加購入」と発表しており、両国の見方に食い違いが見られます。

トランプ関税が経済に与える影響

日米関税協議の合意で先行きの不透明感が和らぎ、7月23日の日経平均株価は1,396円の値上がりとなりました。特に、自動車関税が27.5%から15%に引き下げられたことを受けて、自動車関連株は大きく上昇しました。

しかし、相互関税は現在の10%から15%に、乗用車関税は従来の2.5%から15%に上がるため、影響が出ることは避けられません。

ここからは、今後トランプ関税が及ぼすと考えられている経済への影響について見ていきましょう。

トランプ関税が日本の自動車産業に与える影響

自動車は日本の主な輸出品で、輸出全体のおよそ3割を占めています。中でもアメリカは日本車の最大の輸出先で、日本からの輸出台数のうちおよそ3割がアメリカ向けです。このため、自動車関税の引き上げは日本経済全体にも影響を及ぼします。

関税分を価格に上乗せすれば、日本車の販売価格が上がり、売れ行きが鈍るおそれがあります。一方で、価格への転嫁を避けると企業の利益が圧迫されます。

こうした影響を抑えるため、一部の自動車メーカーは日本からアメリカ国内に生産拠点を移す検討を始めています。また、日本政府は交渉材料として「アメリカで生産されている日本車を日本国内に“逆輸入”すること」を提案しており、日本国内での生産や雇用の縮小が心配されています。

トランプ関税が日本の輸出産業全体に与える影響

自動車に限らず、機械や電子部品、化学製品など多くの輸出産業がアメリカ市場に依存しています。こうした製品に高い関税が課されれば、現地での販売価格が上昇して競争力が落ち、企業の業績悪化や雇用への影響が広がる恐れがあります。

特に中小・小規模事業者への影響は大きいため、今後の政府による資金繰り支援や雇用維持対策などが重要になります。

トランプ関税が世界経済に与える影響

関税を支払うのは輸入する側の企業のため、アメリカでは関税分が商品価格に上乗せされることになります。これにより今後、自動車や電化製品、食料品、衣料品など幅広い品目で値上げが進むと予想されています。

物価が上昇すると消費や投資が抑えられ、アメリカ国内の景気が冷え込む可能性があります。さらに、アメリカ経済の減速は、世界の需要や金融市場にも影響を及ぼしやすいため、世界経済全体の成長を鈍らせるリスクもあります。

日米関税は最悪の事態は回避したが影響はこれから

 

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日米関税交渉では最悪の事態は避けられましたが、正式な合意文書は作成されておらず、内容をめぐる日米の認識にはずれが見られます。さらに、ベッセント米財務長官は「日本の実行が不十分であれば、関税率を自動車を含めて25%に戻す」と発言しています。

また、関税が引き上げられてから経済に影響が出るまでには時間差があります。企業はもちろん家計へも影響が広がる可能性があるため、今後も注意して見守っていく必要があります。

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