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2025/07/04

どうなるトランプ関税②過去の貿易交渉はどう決着した?

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2025年6月16日、カナダで開催されたG7サミットに合わせて石破首相とトランプ大統領による日米首脳会談がおこなわれました。日本側はアメリカから譲歩を引き出したい考えでしたが合意には至らず、今後も協議を継続することで一致しました。

今年4月9日に発令された相互関税は90日間の停止中で、猶予期限まで1ヵ月を切っています。そこでこの記事では、過去の貿易交渉の事例やアメリカとの交渉が進んでいるイギリスの合意内容についてわかりやすく解説します。
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1980年代の日米貿易摩擦はどう鎮静化した?

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1980年代、日本は高度経済成長を経て「世界の工場」となり、自動車・家電・半導体などを大量に輸出するようになりました。日米の貿易収支は大きく偏り、日本はアメリカに対して大幅な黒字に。一方、アメリカでは製造業の競争力が低下し、「安い日本製品が国内産業を脅かす」との不満が高まりました。

1981年:自動車の輸出自主規制

こうした不満を受け、アメリカは日本に対して輸出の制限や市場開放を強く求めました。そこで1981年、日本はアメリカへの自動車輸出を年間168万台に制限。表向きは日本側の判断による「自主規制」でしたが、実質的にはアメリカの強い要求を受け入れたものでした。

1985年:プラザ合意

1985年には、ドル高を是正して他国通貨を引き上げ、アメリカの巨額な貿易赤字を是正することを目的に、アメリカ・日本・西ドイツ・フランス・イギリスの5ヵ国による「プラザ合意」が結ばれました。これにより、日本円は1ドル=240円前後から150円台へと急激な円高に。日本の輸出産業は打撃を受け、結果としてアメリカへの輸出が減少し始めます。

1989~1990年:日米構造協議

アメリカは「貿易摩擦の根本的な原因は日本の経済構造や経済体質にある」として、日本の市場構造や市場開放を話し合う「日米構造協議」の開催を求めました。協議は1989年から合計5回おこなわれ、1990年6月に最終報告がまとまりました。

協議の中でアメリカは、日本の流通制度、金融の閉鎖性、公共事業の不透明さ、土地政策などが外国企業に不利だと指摘。日本はこれに応じ、公共投資拡大のほか大規模小売店舗法の規制緩和などに取り組むことになりました。

現地生産の拡大

日米間でさまざまな交渉がおこなわれる一方、関税リスクやアメリカ国内での批判を回避するために多くの日本企業が現地生産へと乗り出します。トヨタ、ホンダ、日産などの自動車メーカーはアメリカに工場を建設し、部品の現地調達率を高めることでアメリカ国内の雇用創出にも貢献しました。こうした動きは、「輸入が雇用を奪う」というアメリカの不満を和らげることにつながりました。
貿易摩擦は複数の対策により鎮静化した
1980年代の日米貿易摩擦は、「輸出規制」「為替調整」「構造改革」「現地生産」といった複数の対策を通じて徐々に沈静化していきました。また、1990年代には日本がバブル経済の崩壊によって輸出主導の成長から内需拡大へとシフトしたことも、摩擦の収束を後押しする要因となりました。

第一次トランプ政権時の日米貿易交渉の結末は?

2017年に発足したトランプ政権は「アメリカファースト」を掲げ、通商政策でも大きな方針転換を打ち出しました。これまでの多国間の自由貿易重視から一転、「自国に不利な貿易協定は見直すべき」との立場をとり、日本を含む貿易黒字国に対して強硬な交渉姿勢を示しました。

2017年:アメリカのTPP離脱と二国間交渉への転換

トランプ大統領は就任直後の2017年、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの離脱を表明。アメリカとの貿易交渉は、多国間での交渉から二国間交渉へと転換していきました。

2019年:日米貿易協定の署名

トランプ政権は、特に日本との貿易赤字の大部分を占める自動車と自動車部品を問題視し、自動車関税の引き上げを検討。これに対し日本側は反発し、報復措置への懸念も高まりました。

さらにアメリカは、日本による農産品の関税撤廃・引き下げも強く要求。特に牛肉や豚肉、小麦などの分野でアメリカ製品に不利な条件を課しているとして、是正を迫りました。

度重なる交渉の結果、2019年9月に日米貿易協定が合意・署名されました。協定では、アメリカ産の牛肉・豚肉・チーズなどの農産品に対して、TPPと同水準まで段階的に関税を引き下げることが決定されました。

一方、日本側の関心が高かった自動車・自動車部品への追加関税は、当面見送られることになりました。日本としてある程度の成果を得たといえるものの、さらなる協議が今後の課題として残されました。

第一次トランプ政権時の貿易摩擦は日米貿易協定により激しい対立を回避

この日米貿易協定により、両国の最大の争点であった農産品と自動車に一応の整理がつき、激しい対立には至らずに済みました。とはいえ、自動車・自動車部品への追加関税は棚上げされた状態であり、交渉次第で再び摩擦が強まる可能性も指摘されていました。

イギリスとアメリカは貿易交渉で合意

2025年6月17日、イギリスはアメリカとの貿易交渉で日本より一足早く合意に達しました。

注目されたのは自動車関税で、年間10万台までは既存の関税と合わせて10%まで引き下げられることになりました。また、航空宇宙産業に関する輸入品は無関税とすることも盛り込まれています。

一方鉄鋼やアルミ製品については、低関税の輸入枠を設けることで同意したものの依然として25%の関税が維持されており、具体的な内容は今後の協議により決定します。

こうした関税緩和の見返りとして、イギリス側はアメリカ産の牛肉など農産品の輸入を拡大することで譲歩の姿勢を示しました。双方が一定の譲歩を重ねたことで合意に至ったといえるでしょう。

貿易交渉は今後も継続

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G7に合わせて開催された首脳会談では、期待された合意は得られず、今後も交渉は継続されることとなりました。トランプ政権のベッセント財務長官は、7月9日に迫る相互関税の停止期限の延長にも言及しており、最終合意には時間がかかるとみられています。

過去の例を見ても、交渉合意には自動車の輸出規制や農産品の輸入拡大など、幅広い分野での駆け引きが必要です。協議が長引く中、関税政策への不満がアメリカ国内にも広まりつつあり、今後の交渉の行方に注目が集まっています。

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